介護事業所の労務管理


【介護事業所(介護施設)の労務管理の特徴】

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」という通達によると、訪問介護労働者の定義について「訪問介護事業所に使用される者であって、介護保険法に定める訪問介護に従事する訪問介護員若しくは介護福祉士又は、老人、障害者等の居宅において、入浴、食事等の介護やその他の日常生活上の世話を行う業務に従事するものをいう。したがって、介護保険法の適用の有無に関わらないものであること」と規定されています。

つまり、介護事業所(介護施設)の労働形態は、多様な職種の形態、多様な雇用形態の集合体であるという特徴があり、それだけに複雑な労務管理が求められることになります。

多様な職種の形態とは看護師、ホームヘルパー、栄養士、医師など多様な職種や資格を持った方々によって構成されるということで、これは製造業や一般のサービス業にはあまりみられません。

また、多様な雇用形態というのは、正規雇用、非正規雇用から臨時、有償ボランティアに至るまで様々な働き方をする人がいるということです。

従って、それぞれの形態に合わせた労務管理をしなければなりませんので、他の業種と比較し、やや煩雑なものとなります。そのためか、サービス残業が行われていたり、深夜労働の割増賃金が曖昧にされたりということで、労働基準監督署から指摘を受けるのが他の業種より多くなっています。

介護業界は不況には強い業界ではありますが、その反面、介護保険サービスの仕組上大きく利益を出すことができないといった面もあり、多くの事業所は経営が苦しく、また人材も不足しているとのことで、ついつい使命感の強い労働者の善意に頼ってしまいがちですが、近年、労働基準監督署も介護事業所に対する調査を強化していますので十分注意が必要です。


【多様な職種・雇用形態に対応した労務管理】

 平成2441日に施行された改正介護保険法では、介護人材の確保とサービスの質の向上のための施策として「介護事業所における労働法規の遵守を徹底、事業所指定の欠格要件および取消要件に労働基準法等違反者」を追加しました。

つまり都道府県知事や市町村長は違反者について、介護サービス事業者の指定等をしてはなりませんし、もし指定をされている介護サービス事業者が違反をした場合は、指定を取り消すことができるようになりました。

従って、事業者は適正な労務管理をすることが急務となっています。前述のとおり、通常介護事業所(介護施設)においては、多様な職種・雇用形態の労働者がいますので、それぞれの特性に応じた労務管理をすることが必要です。

例えば介護支援専門員(ケアマネージャー)は、一人で完結しやすい仕事なのでフレックスタイム制を採用したり、介護の現場は、1ヵ月のマンスリープランがあるので1ヵ月単位の変形労働時間制を採用したりなどです。

また、利用者宅相互間の移動時間や次の仕事までの待機時間などもきちんとルール化しておかないと、不必要な人件費を払わなければならなくなったりしますので、注意が必要です。


【人材不足の問題】

 介護事業は人手で仕事をする労働集約型産業ですので、事業を維持するには人材は欠かせません。ところが、介護業界の人材の現状を見ると、募集をしても来ない、採用をしてもすぐに辞めると言って、人材不足に悩む事業所が多くあります。

2014年現在、介護労働を行っている人は約100万人。厚生労働省はこれに対して140万~160万人必要という見解を発表しています。つまり現段階で50万人前後が不足している計算になります。

 特に離職率の高さは他の産業に比べても類を見ない数字です。介護の仕事に就く人で1年以内に離職する人の割合は35.2%、3年以内に離職する人は79.2%となっています。

この最大の要因は給与の低さにあります。ただ、介護報酬が定められている以上、給与水準を上げたくても限界があるのが現状です。

 そんな中、介護保険以外のサービスに取り組み、介護保険との複合サービスを展開し、介護保険制度の激変に振り回されないビジネスモデルを確立し利益を上げている事業所もあります。

また、外国人労働者を積極的に活用している事業所もあります。日本は現在介護職を目指す外国人研修生について、経済連携協定(EPA)を結んでいるインドネシア、フィリピン、ベトナムに限定して受け入れを行っています(この場合の在留資格は法務大臣が指定する「特定活動」になります)ので、その制度を利用しているのです。

これに対しては、「日本語が不自由な外国人が介護現場でケアできるのか」といった意見があるのも事実ですが、一方で「実際に担当させてみると実に真面目で本当に優しい良いケアをしてくれる」といった声もあります。

例えば、認知症の方であると入浴時に暴れたり文句を言ったりすることもあるそうですが、このようなときに日本人スタッフであると「はい、だめですよ入らなきゃ」とお説教のような口調になりがちですが、外国人だと言葉が分からないので、何を言われてもニコニコしながら入浴介助をするのでトラブルにならないといった例もあります。

また、せっかく就職した人が長続きしないというのも深刻な問題ですが、昔流の叱って育てる指導は通用しなくなっているように感じます。叱られて指導を受けた我々の世代からすると違和感はあるのですが、やはりこれからは‘叱って育てる’から‘褒めて育てる’、‘育つまでじっくり見守る’に変えていくべきなのかもしれません。

人の悪い面を発見するのは簡単な割に、良い面を発見するのは実に大変なことだと思いますが、これを実践してスタッフの定着率が高くなったという事業所もあります。中には採用に当たっては、敢えて現場の人に決めさせている事業所もあります。これには理由があり、上の人だけで決めたら、「こんな人は使えない。こんな人を採用するほうが悪い。」という感情を持ち、育成に責任を持たなくなってしまうことはありがちですが、逆に自らの決断で採用したのであれば、最後まで諦めずに育てる覚悟ができ、人を見切らず育て上げる組織ができあがるからだそうです。なるほどと思いました。

これから10年後には団塊の世代の方々が75歳を迎えられるわけですが、この世代の方々は昔と違ってアクティブに外出される方が多いと思います。子供や孫と遊ぶより自身が楽しめる時間を求めています。そういった方々に対して昔ながらの介護は通用しません。そのようなときにより柔軟な発想ができる若い方々も今後は必要になるかもしれません。


【労働者のモチベーションを下げないために】

統計によると、介護労働者が現在の仕事を選んだ理由の中では「働きがいのある仕事だから」(58.1%)がダントツの一位となっています。

一方、労働条件等の悩み、不安、不満等については、一位が「仕事内容のわりには賃金が低い」(58.3%)で、以下「人手が足りない」(51.0%)が二位、「業務に対する社会的評価が低い」(41.3%)が三位となっています。やはり、賃金の低さが介護事業所(介護施設)の労働者の最大の悩みとなっているようですが、一方で半数以上の人が働きがいのある仕事であると感じているわけです。

せっかく志を持って介護という仕事を選んできたのですから、人材を定着させるためにはその人たちのモチベーションを下げないようにしなければなりません。そのためには、満足感を持たせ、不満足要因を解消する必要があるわけです。

ただ、そこで誤解されやすいのは、不満足要因を解消(例えば、給与が安いのが最大の悩みであれば給与を上げるなど)すれば満足するだろうと思われがちですが、意外とそう単純なものではないようです。

ハーズバーグというアメリカの心理学者によれば、給与などの金銭的なものは、それが不足すると不満足要因になりますが、これが満たされても必ずしも満足感に繋がるわけではないということです。仮に高額な給与がもらえても、同じ事業所で自分より仕事ができない人が自分より上の給与をもらっていたら不満は残るでしょうし、対人関係や作業条件が良くないとやはり満足はしません。

従って労働者のモチベーションを下げないようにするためには、公平感や作業環境など、不満を持たれないように気を配ることも必要なことだと言えるでしょう。

社会保険労務士・行政書士
岩丸総合法務事務所

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資格:特定社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任者

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