歯科医院の労務管理


【歯科医院の労務管理の特徴】

歯科医院はユニットの数によって歯科衛生士、歯科助手などの人員が決まり、一般的にはユニット数に対してマイナス1程度の人員であれば、患者を待たさずに効率よく診療ができると言われているようです。

また人件費の関係から極力余剰人員を抱えることを避けていますので、突然退職者が出たり、急に休まれたりすると診療にも少なからず影響が出てしまいます。特に受付従業員は他の従業員とは役割が大きく違うため、他の従業員との会話に入っていけないなどが原因で従業員間の関係が険悪な雰囲気になることがあります。

そういった意味では院内のコミュニケーションや人材募集および退職時のルールなどを含めた幅広い労務管理を意識する必要があると言えます。


【歯科衛生士の不足】

病院においては看護師不足が深刻な状況となっていますが、歯科医院においても、診療補助や歯科保健指導を行う国家資格者である歯科衛生士が不足している状況にあります。

ただ、そうは言っても歯科衛生士の数自体は年々増えているのです。それでは何故歯科医院において歯科衛生士が不足しているのでしょうか。それは歯科医院の新規開業がそれ以上に増えており、新規開業する歯科医院の増加分を補うまでには至っていないのが現状だと思われます。従って、歯科衛生士を募集してもなかなか応募がなく、そのため歯科医院の中には、資格者である歯科衛生士ではなく、やむなく無資格者の歯科助手を採用する歯科医院もあります。ただ、当然歯科助手では補助診療や歯科保健指導を行うことはできません。

歯科衛生士の資格を持った人は歯科助手や受付の人達と違い、応募に際し「アルバイト感覚で」という認識はあまりないように感じられます。やはり、できればある程度長期に働きたいと考えている人が多いのではないでしょうか。従って応募に際しては、我々が考えている以上に慎重になっているようです。

歯科医院の場合は比較的従業員数も少ないため、やはり職場の雰囲気を重視する人が多い傾向にあります。このため求人の際には歯科医院の雰囲気を伝え、働きやすい職場であることをアピールするような方法がポイントになってくるでしょう。


【歯科助手・受付の採用】

 歯科助手や受付職員は、歯科衛生士とは異なり特に資格も必要なく、応募者は「取り敢えず応募してみよう」と気軽な気持ちで応募してくる人が多い傾向にあります。

採用する側からすると、なるべく多くの人と会って話しを聞いてみたいということから、「子育て中の方でもご安心下さい」「未経験者歓迎」などのフレーズで求人を出すケースも良く見ますが、これにはやはり注意が必要です。人物重視ということで、仕事上求める人材と異なる人を採用してしまうと後々大変なことになります。人員に余裕を持っていれば良いですが、そうでない場合は、例えば子供のことで急に休まれたりすると診療に影響が出ますし、未経験者を採用後に教育する時間的な余裕がないため、患者に迷惑がかかることもあり得ます。

また今の法律では人を雇用した以上、簡単に辞めさせることはできません。やはり雇用のミスマッチを避けるためにも、業務内容や求める人材を正確に伝える必要があります。


【労働時間管理】

歯科医院の診療時間は通常午前診療と午後診療の2回に分けられています。その間2時間程度の休診時間を挟みますが、この間に電話や来客対応などをさせていた場合には当然賃金が発生します。

この場合は、その対応時間のみ賃金が発生するわけではなく、2時間の休診時間中の賃金を支払わなければなりません。これは仮に休診時間中にたまたま電話や来客が無かったとしても、「手待ち時間」と言って、従業員にその間の賃金を支払わなければなりません。この考え方が意外と知られていないようでトラブルになるケースもあります。

休診時間中でも予約や問い合わせの電話が来ることも当然あり、その間も対応できるようにしておきたいという場合は、休診時間中の電話や来客対応を当番制やシフト制にする必要があります。更に一定のルールのもと手待ち時間の賃金を通常の賃金より低く設定するといった対応を取ることも考えられます。

また、歯科医院はあまり残業が発生する労働環境にはないのですが、最近は診療時間の延長を検討している歯科医院も増加傾向にあるようです。

ただ法定労働時間を超えて所定労働時間を設定することはできませんし、仮に法定労働時間を超えて労働させた場合には割増賃金が発生します。そうなると当然経営を圧迫することになります。これを避ける一つの方法として1ヵ月単位の変形労働時間制を採用することが考えられます。

さらに、歯科医院は労働基準法附則別表第一第十三号「病院又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」に該当し、10人未満の規模であれば特例として所定労働時間を週44時間にすることができますので、このような制度を利用することも有効だと考えます。


【休診日の対応】

歯科医院の場合、院長が学会や地域の小中学校で歯科検診を行うため、やむを得ず休診日としなければならない場合がありますが、そこで労働者に対する対応として、この休診日をどう扱うかが問題となります。

これにはいくつかの対応方法が考えられますが、以下にその代表的な方法を列挙します。

1.休日として扱う方法

 就業規則等の休日に関する規定中に「その他医院が指定する日」として休日扱いにする方法。ただ、この方法には、急な休診日になった場合、当初予定していた月給制の従業員の月平均労働時間が変わるため、割増賃金の再計算をしなければならなくなり、事務手数が面倒になるというデメリットもあります。

2.特別休暇にする方法

 有給の特別休暇とする方法。この方法は事務手数も掛からず従業員にも不利益とならないため従業員との間でトラブルになることはないが、その反面人件費が掛かってしまうといった面もあります。

3.休業手当を支払う方法

 休診日を労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」として平均賃金の60%を支払う方法。この方法は、割増賃金の再計算をする必要はありませんが、休診日の都度、従業員個々の平均賃金の計算をするという手間が発生します。

4.年次有給休暇の計画的付与として扱う方法

 実は意外と知られていないのが、この年次有給休暇の計画的付与の制度です。年次有給休暇は年5日までは自由に取得させなければなりませんが、それを超える日数については計画的に付与することができるのです。つまり、この制度を利用して、休診日については有給休暇扱いにする方法です。こうすることにより有給休暇の消化率はアップしますが、新入職員など有給休暇が5日に満たない者に対しては、不利益にならないように配慮する必要があります。

 以上が休診日の扱いに関する代表的な対応方法ですが、いずれの方法を採用するにしてもそれぞれのメリット・デメリットを十分勘案のうえ、各医院に合う方法を採用して下さい。


【口コミなどによる悪い風評を避ける】

最近ネットやSNSなどで歯科医院に関する様々な風評が流れています。

その中にはもちろん歯科医師自体に対する書き込みもあるのですが、一方で受付の対応の悪さなど従業員に対するものも数多く見受けられます。つまり「無愛想」とか「言葉づかいが悪い」といった類のものです。

受付は歯科医院が患者と一番初めに接する、いわば顔であり、そこでその歯科医院の第一印象が決まります。そこで悪い印象を持たれてしまうと、例え歯科医師自身が良心的で腕が良くても評判を落としてしまいます。その最も大きな原因は院長と従業員とのコミュニケーションが不足していることにあるのではないかと感じます。

院長は診療時間中は診療に専念してしまうため、どうしても診療以外のコミュニケーションは不足してしまうのでしょうが、その傍ら、従業員からすると「自分たちには無関心」と感じてしまうのです。それが原因で、従業員が「院長にいちいち聞くのが面倒だから」と自分で勝手に判断し(勝手に予約を入れたり、断ったりなど)、思わぬトラブルになることもあります。

このような事態を引き起こさないためにも、例えば、全体ミーティングなどを実施し、院内の風通しを良くすることが必要でしょう。


【就業規則作成の勧め】

 多くの歯科医院は、労働者数が10人未満であり、その場合、労働基準法第89条に定める就業規則の作成・届出義務はありません。つまり就業規則の作成は任意となり、仮に作成しなくても罰則はありません。その場合、職場の規律や労働者に課す義務は雇用契約書の定めるところによります。

ただ、その時に、もし職場の規律や労働条件を変更する必要が出てきた場合、個々の労働者と締結している雇用契約を変更しなければならず、また、雇用契約はあくまでも「契約」なので、双方の合意がないと変更できません。

それに対して就業規則がある場合、合理的な変更であれば、労働者の過半数代表者の意見を聞くだけ(同意は不要)で変更が可能です。従いまして、仮に労働者が10人未満であっても、就業規則を作成することをお勧めします。

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岩丸総合法務事務所

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資格:特定社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任者

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